蜜柑とアイスの共存
護衛?いいえ、デートです
「環! 探したわ」
「瑠花、どうしたの?」
環が図書室で調べものをしていると、瑠花がうきうきとした様子で駆け寄った。
「パフェを食べに行きましょう」
場所柄小声で、しかしやはりうきうきしながら端末の画面を環の眼前に差し出した。ほう、と思い見てみると、新しくオープンしたというカフェの情報が載っていた。掲載されている写真はどれもオシャレでかわいらしく、なるほど瑠花好みの店だと環はうなずく。
「雰囲気のいいお店だね。他にだれか誘いたい人いる?」
「……わたしは環を誘ったのよ」
環は瑠花が玄界で過ごすうえでの護衛である。ボーダーが今の形になる前から所属していた環は、同じ年齢であるということ、腕が立つということから瑠花とよく一緒に過ごしていたし、その任が解かれる予定は今のところない。
ボーダーの保護下にある瑠花は立場上、どこへ向かうにしても誰かと連れたって出かける必要がある。いくら護街であるとはいっても必ず環と一緒でなければならないということはないが、最低限動ける者との同伴が必要なため、瑠花はどうしても都合がつかないというとき以外はまず環に声をかけるのだ。
貸出のために本を閉じ、席を立ちながら尋ねると瑠花は少し拗ねたように返した。二人でいくにせよ、こういった反応をされるとは思っていなかった環ははっとして、逡巡ののち、つまり、瑠花に尋ねる。
「……えっと、それはあたしと二人で行きたいってことで、あってる?」
「最初からそう言っています。他の者を誘うのであれば、あなたを誘う時にいつも伝えているでしょう」
ぽこぽこと怒りながら言う。こうして二人きりのお出かけに誘うことは初めてのことではないのに、いかんせん環は鈍いのだ。そういうところもかわいいと思っているけれど、あんまり情緒のない提案をされると寂しくもなってしまう。
「そ、そっか。そうだね、うん……」
けれど、こうして照れたように目を伏せる彼女の姿はやっぱりかわいい。この様子なら色好い返事がもらえるはずだと瑠花の機嫌は既に直っていたが、わざとつんとしてみせる。
「それで。まだお返事を聞いていないのですけれど?」
「……あたしも瑠花と行きたい、です。……ふたりで」
「よろしい」
環が誘ってくれてうれしいと言えば、瑠花はやっと満足気に微笑んた。
2023/07/11
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