蜜柑とアイスの共存

闇の商人とルミール村の少年


 僕はお使いの紙を眺めていた。頼まれごとのほとんどは市場の店や、南や西からはるばるきた商人たちから買い付けができたのだが。
「うーん……あとひとつ……どこに売ってるんだろう」
 わからないなら人に聞いてみよう。そう思い先ほど買い物をした商人に尋ねると、彼はああと頷いて「魔法水晶なら、確か闇の商人が売っていたよ」
「闇の商人ですか」
「うん、ほらすぐ後ろに」
「えっ」
 振り向くと、とんがり帽子に鳥のようなくちばしのついた仮面をつけた人物が荷物の陰に隠れるように佇んでいた。視線に気がついたのか、いずこかを見ていた顔がこちらに向く。仮面をつけているので当然彼(彼女?)がどんな表情をしているのかはわからない。まいどあり、と手を振る商人に見送られ、闇の商人の元へゆっくりと歩み寄った。
「よく来たな」
 くぐもった低音が聞こえる。どうやら男性で合っていたらしい。
「こちらで魔法水晶を扱っていると伺ったのですが」
「ああ、幾つ必要だ?」
「ええと……二十個ください」
 個数を伝えると荷車からすぐに品が出てきた。それと交換に僕も彼にお金を手渡す。そうして、また来い、と挨拶をしまたそっぽを向いてしまった。
 覆面であることに物々しさを感じてしまったが、なんということはない。愛想がいい……とは言わないかもしれないが、彼も商売なので見た目の怪しさ以外は特に何もおかしなことはなかった。そもそも見た目が怪しいとはいっても、彼は自分の職種に合った格好をしているだけであり。ガルグ=マクやこの五年いたセイロス教会ではあまり見かけない服装だからといって、思わず身構えてしまった自分を恥じた。反省。

 と、いうことを、今週何度目かのお茶会の際に先生に話したら、先生は「ああ、あの商人……」と思い出すように呟いた。
「ご存知ですか?」
「ああ……というか、闇の商人が来るようになったのって、魔物討伐の依頼をクリアしてからだったような」
「あ、先生のおかげだったんですね」
 魔法水晶は魔獣から剥ぎ取るものだが、剥ぎ取るための戦闘は一苦労どころではない。そのような状況から安定供給できるルートが確保できるようになったのは大きい。
「……あの方、あれから何度か見かけてるんですけどいつもマスクなんですよね、暑くないのかな……」
「さぁ……荷車の陰にいたのなら、暑いんじゃないのか」
 そうかもしれない……。思ったよりも怖い人ではないということがわかったので、今度機会があれば聞いてみよう。暑さ対策とか。
 じりじりと肌に感じるのは、ひととおり自分の紅茶を飲み終えて僕をじっと見つめる先生の視線のせいか、それとも夏にむけて高くなってきた日差しのせいなのか。


2019/08/26


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