蜜柑とアイスの共存

湯のみで一杯

 司令官殿に任されていた作業を終わらせて、その報告に訪れたのだが。
 迅は高倉司令官の部屋に入ってから、目の前の光景にしばし絶句した。
 目的の人物はずず、と湯のみの緑茶を啜り、ほっとしたように息を吐き出す。その側には司令官が本部にくるきっかけとなったプロジェクトの古株である狙撃手の佐鳥と、雨取が同じようにくつろいでいた。
「落ち着きますねえ」
「このおはぎ美味しいですね」
「あんこと緑茶が、よく合ってます」
「……えっ、なんか私物増えてない?」
「ああ、迅くん、こんにちは」
「迅さん、こんにちはー」
「こんにちは、迅さん」
「はい、こんにちは。……みんなしてお茶会?」
 普通のオフィスと変わらない内装のはずのこの部屋に畳が何畳分か持ち込まれていた。受け皿が何枚かと人数分の湯のみ、集いの中央には卓袱台がありその上には急須と、それから重箱に詰められたおはぎが並んでいた。
 こいこい手招きをする司令官につられ部屋の奥へと入っていく。頼まれていた書類を手渡しながら勧められるがままに集いの輪の中に入ると、ボーダー隊員としてもプロジェクトとしても後輩にあたる二人が、おはぎをこれまたいそいそと勧めてくるのでありがたく頂くことにした。
 司令官はというと中身を確認しつつ席を立ち、きちんと畳の外に揃えられていた革靴を履いてデスクへ向かう。
「……うん、バッチリですね。さすが迅くん、よく出来ています」
「ふっふっふ、なんたって実力派エリートですから」
 キラーン、おはぎを食べながらキメ顔で返す。いつも持ち歩いているぼんち揚げも緑茶に合うだろうとパーティー開けにして、集いメンバーが取りやすいように中央へ寄せた。
 書類をデスクへしまってから司令官はまた別の引き出しを開け、しばらく悩んでいたようだが「おっ、ありましたよ~」と独り言を呟き、そこからひとつ何かを取り出してまた畳の侵食するこのゾーンへと戻ってくきた。と、それを迅へ差し出した。
 緑色の湯のみである。
「……湯のみ?」
「はい。畳を持ち込んだのは私が一番楽に過ごせるからなんですが、どうせなら皆さんにもくつろいで頂けたらなあと思いまして。それで、いつも任務に励んでくださっている皆さんになにかお返しをできればと…こんなものしか用意できませんでしたが、いつでも来て下さっていいんですよ」
「佐鳥も緑色の湯のみをいただきました~」
「わたしは……赤い湯のみを」
 
 和やかに微笑む司令官に、佐鳥と雨取も穏やかな表情で感謝の言葉を述べた。雨取とは玉狛支部で会う機会が多く空閑や三雲と居間で一緒にくつろいでいることが多いが、それと同じくらいこの環境は居心地がいいらしい。一般的なオフィスと言っていいはずの内装は見ての通り畳に侵食されつつあり、かなり好意的にみても和洋折衷と言っていいのかは首を傾げるしかないが、緩やかな雰囲気がこの空間には漂っている。
 佐鳥が持ち上げた緑の湯のみは迅のものとは色の深みも柄も別のものだった。
 まじまじと司令官から渡された湯のみを眺めていると彼はいつの間にか畳ゾーンまで戻ってきており、よく磨かれた革靴を再びきちんと揃え並べてから、先ほど座っていた位置に戻り急須に湯を注いだ。
「……これ、もしかしてみんな柄違う?」
「はい、どういったものが良いかなあ、なんて選ぶの、とても楽しかったですよ」
 にこー、と人好きのする笑顔を浮かべる司令官。この高級そうな食器を、全員分。好々爺……というほど年齢を重ねているわけではない。いっているとしても精々忍田本部長と同じか、それよりも少し年上くらいだと推測されるが、彼の選ぶ品の渋さと手間の掛けよう、そして彼自身の纏う雰囲気は、その言葉がぴったりだった。
 孫にお小遣いをあげたがるおじいちゃん。まさにそんな状況である。
 なんで俺こんな気持ちになってるんだろう……。
 高倉司令官のプロジェクトに一番最初に参加したメンバーでありながら後輩二人よりもうろたえている自分になんとも言えない気持ちになりつつ、これでも慣れてきた方なんだけどなあ、とひとりごちた。
「迅くん、お茶淹れるので湯のみをください。佐鳥くんと雨取くんはいりますか?」
「えっ、それくらい俺がやりますよ」
「いいんですいいんです、ゆっくりしていてください」
 完全に世話焼きのそれである。
 反射的に湯のみを握る手に力が篭る。司令官と数秒見つめ合い、これはどうあっても譲る気は無さそうだということを……元からわかっていたのだが、これでも高倉司令官は迅らの上官なのである。普段から上層部にも飄々とした態度を崩さない迅だが、こと司令官殿に対してはどうも調子が狂ってしまう。
 後輩二人はどう思っているのだろうか、二人に視線を向けると、彼らは湯のみを司令官に預けありがとうございます。と深々おじぎをしていた。姿勢もよくとても礼儀正しい……いやいや。
 ふぅ、迅は吐息の様なため息を吐いた。自分もまだまだだなあ、などと思いながら。
「……ありがとうございます。今度はぼんち揚げだけじゃなくてそのお茶に合いそうな、司令官殿の好きな和菓子でも持ってきますね」
 
 眉を下げて笑う迅に、高倉司令官もにっこりと笑みを返した。
 
 
 
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 ツイッターでフォロワーさんと盛り上がったスマボの司令官主。
 司令官夢主探してもいなかったので増殖(? )祈願。
 うちの部隊ではチュートリアル終了ガシャで迅さんが来てくれたのでこういうことになりました。ちょっと司令官に振り回され気味。
 一応湯のみの色はキャラの知技体カラーのつもりです。
 司令官主増えろ~! 
 
 
15′12/10

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