「今夜あいてるか」
電話ごしに聞こえた声は疲れている様で、だがあからさまに心配するのも憚られて特に何でもないようにあいてるけど、と返す。
会ってみればいつもより隈が濃くなっていて、それでも俺を呼び出したということは山場は越えたようだと一人頷きその辺のコンビニで買ってきた酒とつまみを掲げた。
花の金曜日。というのはもう死語なのだろうか。とにかく今日は週末。
「期間限定って大抵チューハイだよな」
「ビールに他の味ついててもおかしいだろうが」
「もうちょっと甘くないのないかなー」
缶を傾け残り少なくなった酒を呷る。
リヴァイの頬も赤らんでおり、いつも鋭い眼光はわずかながらに和らいでいてどこか眠たげにも見える。
二人だけの酌を楽しんで、お互いいい感じに酔っ払ったところでうだうだしっぽりしけこんで。
シャワー浴びてくる。
ムードも何も……いや、始める前だったならそれなりの台詞になるのだろう。
しかし終わった瞬間。余韻に浸る間もなく俺をぺいっと乱れたシーツの上へ放り投げ部屋の奥へ向かっていったリヴァイを、あんまりだと思わない人間がどれだけいるだろうか。
くっそアイツまじ賢者タイムひでぇ。
内心毒づき、シャワーへ向かう前に言われた、シーツも剥がしておけよとの言葉に従うために腕に力を入れた。が。
やはり行為後の気だるさにもう少し身を預けていたくて、ベッドに身体を沈める。
幽かに聞こえるシャワーの音。潔癖症だとはいうが、人に触れることに問題がないのならそれ以外にももう少し寛容になればと思うのだが、どうだろう。
すん、鼻をならせば酒と、栗の花の匂いとそれにまじった洗剤の香り。
枕やシーツは、アイツの匂いが移る前にいつも洗われてしまう。
シャンプーではなく石鹸の香り。それに、わずかな体臭が乗っているのを確かに知っているのは俺だけでいい。
潔癖症故のことなのかどうかは解らないが、嫌がられながらも首もとを嗅げば人として当たり前のそれに心地好さを覚える。
リヴァイの潔癖症に影響された。というよりは引きずられた形で、俺も綺麗好きくらいにはなっているだろうと思う。
以前俺の部屋に来たときにはある程度掃除をしていたにも関わらず盛大に眉を顰め開口一番が「掃除」の一言だったし、その後もそのせいで色々と予定が狂った。
わざわざ不機嫌にさせる理由もなく蹴られるのも御免なので、それ以来はリヴァイが気にしそうな汚れを自然と片付けるようになった。
後日俺の部屋に来てからの鼻をふん、とならした満足気な表情は割と好きな部類に入るものだし。
窓の縁を指先でなぞり始めた時は流石にどこの姑かと思ったが。
むくり起き上がりシーツを剥がして脱衣場の洗濯機へ突っ込む。
扉を一枚隔てたシャワーの音はまだ途切れない。
放っておかれて、肌寒さを感じているにも関わらずいまだ冷めやらぬ熱の責任は、アイツ自身にしっかりととってもらおう。
*企画私の英雄様に参加させていただきました。
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