蜜柑とアイスの共存

フレンドリー・ライブラリ


「……あのさあ、邪魔なんだけど」
 苛立ったおれの声に振り向いたその高校生は、驚きに目を丸くさせていた。

 太陽が真上にいる時間。真っ白な息を吐きながら自転車を漕いでたどり着いたのは、コンクリートのヒビが目立つ古めかしい建物、図書館だ。屋根付きの駐輪場へ停めて足早に自動ドアをくぐる。昨日借りたばかりの本を数冊カウンターに返却してから、いつもの児童書コーナーへ向かう。目指すは続巻だ。
 そわそわと浮き足立っていたおれだったが、はやる気持ちを早々に、冷や水をかけられるような出来事があった。
「……」
 高校生が、いる。多分高校生。近くの中学とは違う制服を着ているし、なんせ身体が大きいから。うげぇ、という顔を繕いもせず、遠巻きに背後から観察する。明るい髪色に黒いヘアバンド、着崩した制服、カバンから飛び出ている謎の棒、あれはきっと間違いなく――冷やかし目的の高校生だ。
 親の仇を見るようにそいつを観察していたが、しばらく経っても他所へ行く気配はない。とうとう痺れを切らしたおれは、相手が一人ならやれる。そう思ってそいつに言ってやった。邪魔である、と。
 ぽかんとした後、悪ぃ、と言いながら横に避けた。少し想像していた反応と違うことに内心首を傾げながらも、ふん、と鼻息荒く借りていた本の続きを探したおれは、あれ、と手を止めた。目当ての四巻を飛ばして、五巻からしか置いていない。どうやら誰かが借りている途中のようだ。冒険の続きをすぐにでも見られるものだと思っていたおれは、予想外の展開に肩を落とした。仕方がなく他の気になる本でも探そう、と別な場所に視線をやると、さっきの高校生がまだ横で、首を傾げて悩んでいることに気が付いた。
「……」
 高校生は首を右に傾けたと思えば、左に傾ける。なにか熱心に悩んでいるようだが。
 ……もしかしてこの高校生。本を、探しているのでは。
 今までに会ったことのある高校生への印象が悪すぎて、図書館に普通に本を借りにくる高校生という図が思い浮かばなかった。ううん、普通に本を借りにくる高校生はそりゃあいるんだろうけど、小学生以下の、子供向けの児童書や絵本が置いてあるコーナーに来るのは、そういうヤツらだとしか思えなかったのだ。
「……なんか、探してる本でもあるの」
 図書検索用の機械なら向こうにあるけど、と、カウンター付近を指差して高校生へ言う。
「あー……いや……なんてーか……」
 曖昧に言葉を転がして、うなる。少し乱暴に頭をかいてからその高校生はまたおれと目を合わせた。
「これ、って決まってるわけじゃないんだけどさ、オレでも読めるような本探してて」
「?」
「文学とかエッセイとか、勧められはしたんだけど文字が多くて読める気がしないなー、と思ってて」
 だはは、と笑いながら冗談半分に言っているようだが、困っているのは確からしい。なにせ、通りすがりの小学生にも話すぐらいなのだから。しかし、児童書コーナーに来たのなら任せて欲しい。ここは小学生の領分だ。
「でも……ラノベとかあるんじゃないの?」
「ラノベ……うーん、ページ数が多くて文字が多いってのが、どうしても教科書読んでるみたいで……見てると眠くなってくるっていうか」
「文字数多いのがダメなんだ」
「そうなんだよ」
「絵本とか読む?」
「んー、昔は親に聞かせてもらってたけど、最近はさっぱり……。あ、そういえば課題図書とかあったよな。あれっていまの時期にもあるのか?」
「まっ……待って、待って」
 カウンターの方へ向かおうとする高校生のカーディガンを掴んで引き止める。振り返る高校生に首を振って理由を話した。
「おれは今年の課題図書は正直好きじゃな……。いやいや、そうじゃなくて、確かに課題図書って読みやすいものを進めてるらしいけど、一番読みやすいのは好きなジャンルだと思うよ」
 本音が漏れたけど、高校生はなるほどな、と納得してくれたようだ。しかし試しに好きなジャンルをたずねたがそれもわからないようで(たしかに普段本を読まないのならわからないのかもしれない。夕方にやってるアニメも、あんまり見ないらしいし。)、逆におれの好きなジャンルを聞かれた。
「おれ?おれは……やっぱ冒険物だよ、剣と魔法の世界でカッコよく敵を倒したり、財宝をめぐる冒険があったり!」
「おお、それはたしかにワクワクするよな!……あ、オレ現代ファンタジー……?学園モノ?の話ならやったことあるぜ」
「ゲーム?なんて作品?」
「ゲームじゃなくて映画の話なんだけどさ、超常学園ってやつ」
「超常学園……あ、CMみたことあるかも、異能モノだっけ、超能力バトルだったよね」
「そうそう!ああいうのも面白いよなー」
 風で飛んだりするんだぜ、とフリを付けて語る高校生におれのファンタジー好きの精神が騒いだ。わかる、そういうの。仲間のピンチに颯爽と登場!とか、めちゃくちゃロマンだ。
 興奮気味に高校生の話に頷く。それと同時に、先ほど続きを探していた本を薦めるならば今しかない、と強く思った。身を乗り出して断言する。
「じゃあおれが好きな本も絶対好きじゃん」
「お?マジ?」
「うん、たぶん、きっと……いや、絶対!オススメだから!読んで!」
 話し込んでいる間に、ちょうど先ほど返却棚に置いてあった本を戻しに司書さんがこちらへ向かっていた。司書さんに事情を説明すると、高校生をちらっとみたあとに快く本を渡してくれた。
 受け取った本をそのまま高校生に渡す。文字もそんなに小さくないし、挿絵も多く入っているこの本なら、小説が苦手だという人にも読みやすいはずだ。
「これ、この本!おれも昨日借りて読んだばっかなんだけど、ほんっとにすっごくおもしろかったから!」
「おー、わざわざオレのためにありがとな」
 中身をぱらぱらとめくって、これならオレにも読めそうだ。と上機嫌そうに言った。
「……お、おれは……おまえのためっていうか……」
 どちらかというと自分の好きな本を共有できる相手がいたことに興奮していたというか。どうせなら自分の好きな本を読ませたかったというか。
 ごにょごにょとまごつくおれの言葉をよく聞き取れなかったのか、首を傾げながらもそいつは続けた。
「?でも本を探すのに邪魔してたオレのためにわざわざ選んでくれたんだろ?」
「あっ……や……その、最初のは……えと、態度悪くて、ごめんっていうか……。たまに、ここにきて子供向けの本を馬鹿にして帰ってく中学生とかいるから……同じような人なのかと、勘違いしてて」
 だから、ごめん。そう言ってうなだれたが、そいつは明るく笑っていた。
「ダイジョーブだって!気にしない気にしない!」
 それから早速その本を借りて、今から部活に向かうのだと言ってその高校生は去っていった。その時に聞いたのだが、鞄に刺さっていた謎の棒は太鼓を叩く棒だそうだ。
 おれはというと、目当ての本の続きがなかったかわりに、他の本を引っ張り出して、閉館時間までずっとそれを繰り返していた。
 その間に何度か、読みたかった本の続きが返却されていないか見にいったけど、どうやら今日中に読むのは無理なようだ。

 数日後、今度は閉館間際の時間に例の高校生が図書館に訪れた。座り心地のいい布地の椅子から、倒れない程度に身体を傾けて彼を呼んだ。目が合うと高校生は片手を上げておれに応える。
「おっす、本読んだぜ、オレにも読みやすくてスゲー面白かった!」
「だっ……だろー!?最高だろ!?おれは魔法図書館で本が喋るシーンがすっげえ好きなん……だけど……」
 同じように本を読んでいる友達があまり……というか、全然いなかったおれは、やっと感想を共有できる人間ができて興奮気味にまくしたてる。しかし、テンションが上がりすぎていたようでカウンターから顔をのぞかせた司書さんが、口元に人差し指を当てておれに合図した。
 はっと気がつき、とたんに尻すぼみに縮んでいくおれの声。高校生はそれにちょっと吹き出すように笑い、ほんとうは高校生が注意されたわけではないのに、すこし声を小さくして「うんうん、それで?」と続きを促してくれる。
 それになんだか恥ずかしいようなむず痒いような気持ちになったけれど、そのことに気付かれるのも恥ずかしい、と思ったおれは気にしてない風を装って話を続ける。
「……本が喋るシーンが好きで、中には、図書館にいなくても普通に野生で生きていけるぐらい強い本もいる……っていうのが、すげー、いいなって思った」
「あー、本が野生で暮らすって面白いなってオレも思った。あと何食って生きてるんだろ?とか」
 本の生態についてあれこれ交わされる。水を吸ったらしわしわになるだとか、口がある本もあるらしいが、無い本はどうするのかとか、日の光にあたりすぎてはいけないはずなので、もしかすると夜行性なのか、とか色々。
「おまえは好きなシーンとかないの?」
「オレはなぁ……屋台でドーナツが売られてるとこが好き」
「屋台?あー、情報聞き込みしてる時の……あれ、あそこって何か事件とかあったっけ?」
「話の展開的に重要ってほど重要じゃないけど、オレ、ドーナツが好きでさ。自分の好きなものが出てきたからつい、おっ!て」
「へー……ドーナツ好きなんだ……。あ、だったらさ」
 座っていたソファからすっくと立ち上がり本棚をぐるりと見渡す。えっと、確かこっちの方に……。突然席を立ったおれにどうした?と尋ねたが、おれは本を探すことに集中しているのでぼんやりとした生返事しか返さない。背表紙を指差しながら確認し、目当ての本を見つけるとそれを引き抜いて元いた場所に戻る。そして、表紙を高校生につきつけた。
「これ、読まない?」
「えーっと何々……『ワクワクドキドキ、魔法ドーナツの作り方』……!?こ、これはまさか……ドーナツについての本……!!」
「その本、お話も書いてあるけど、一番後ろに魔法ドーナツのレシピとかもついてるし……おれは作ったことないけど、おまえなら作れるんじゃない」
「うわーっ、こういう本もあるんだな!すげえ!さすが!オレに必要だったのはこういう本なのかもしれない!」
「フフン、もっとたたえてくれてもいいよ」
「サイコー!児童書のプロだぜ……!!」
 自分が勧めた本にキラキラと目を輝かせている人を見るのは悪くない、というかむしろ良い。とても良い。おれは高揚感に頬を熱くさせながら、「同じシリーズでクッキーとかパイとかもあるから、ドーナツの話がよかったらそっちも読むといいんじゃない」とすすめておく。
「そうする!それと借りてた本の二巻も借りてこ」
 かくして、高校生はおれが渡した魔法ドーナツの本と、この間借りていった本の続きの二冊を持ち出し、浮き足立った様子で貸し出しカウンターへ向かっていた。
 その様子をなんとなく眺めていると、貸し出しの作業が終わり本を受け取った高校生がこちらに振り返り、「また今度なー!」と元気よく手を振った。……のを、司書さんに注意されていた。
 お腹の底から湧き上がる笑いをこらえきれずに吹き出したが、おれも手を振り返して挨拶をする。角を曲がって、高校生の姿が完全に消えたのを確認してからソファにぼすんと座り込み、そのままごろんと横になる。
「……うう」
 まだ顔の熱さが元に戻らない。好きな本の話を誰かとすることが、こんなに楽しいだなんて。たまに、司書さんに話しかけられたりすることもあるけれど、その時ももちろん楽しかったけれど、本をあまり読まない人に喜ばれるのは、かなり楽しい。もしかして、司書さんたちもおれにたいして最初はそういう気持ちでいたのだろうか。オススメされた本を返す時に、恥ずかしがらずにもっと具体的な感想を言えばよかっただろうか。
 人の少ない時間帯では、荷物を広げていても特に注意されることはない。おれは寝っ転がった体勢のまましばらく起き上がらないでいた。

 さらに数日後、児童書コーナーに設置してある机で、お昼までには一区切りつけてしまおう、と決心し宿題を片付けていると、トントン肩をつつかれた。振り返ると、頰にぶに、という感触。手を肩に置いたまま人差し指を立てて待ち構えていたのだ。引っかかった、と楽しそうに言う高校生の手をはたき落としながら怒ってはみるが、そいつがあまりにも楽しそうに笑うものだから、いよいよおれまで面白くなってきてやめろよ、の一言にも笑いが含まれてしまう。おれはカウンターの方を向いている席に座っているのに、こんないたずらをするためにわざわざ本棚を回り込んできたのだろうか。その推測も、笑いに拍車をかけている一因だ。
「こ、こんなさぁ……くだらないこと、するなよ……フフッ」
「へへ、悪ぃ悪ぃ。な、ドーナツ買ってきたんだけど、食べる?」
「ドーナツ?」
 問いかけると、高校生は手に持っていた箱を掲げた。おれも家族と行ったことがある、チェーン店の箱だ。文字通り甘い誘惑がおれを引き寄せようとするが、ぐっとこらえて首を振る。
「宿題、今のうちに終わらせたいから、後でもいい?」
「宿題?……わっ、ホントだ。何やってんの、算数?懐かしいなー、オレも同じドリル使ってた気がする」
「そうなんだ……ねぇ、算数得意?わかんないところあるから教えてほし…――」
「えっ」
「あっ……やっぱりいいや……」
「スマン……オレは力になれそうにない……金勘定なら多少は……」
「うん、わかった。わかったから、この前の続きとか借りてきたら」
 切ない表情をしながらうん、頷きつつも高校生は同じ机の椅子を引いて座り、おれの宿題を見つめる。ドリルを見ているうちは良かったけれど、書いているところをずっと見られるのはとてもやりにくい。やがて視線が教科書に流れたことを内心ホッとしつつ、紙の端で意味もなくぐるぐると円を描いていたシャーペンの先を、途中式を書くために離した。
 教科書をぺらぺらとめくりながら唸ったり首を傾げたりしていた高校生だが。不意にあっ、と小さく声を上げる。
「そういえばオレたちお互いの名前知らなかったよな」
 みると、高校生は教科書の裏をおれに見せてきた。自分のものには名前を書いておきましょう。という先生の教えに素直に従ったものだ。げっ、という表情を反射的にしてしまうが、それはしょうがないだろう。何せおれは、あまり人に自分の名前を知られたくは──。
 高校生の手から教科書を取り戻そうと立ち上がったおれにむかって、そいつは晴れやかな笑顔を浮かべた。
「改めてよろしくな、ミドリ!」
 虚を突かれすぎて、伸ばした手が空を切る。そのままよろけて机に手をついた。あまりのことに脱力してしまい、膝から崩れ落ちそうになるがなんとかこらえる。今、こいつはなんて言った?
「……っ!?お、おまえさ……算数だけじゃなくて、国語もできないの……」
「えっ、……あー、なんか間違えたか…?ゴメン!もしかして、別の読み方?」
「……、……」
「ほんとゴメン!名前、間違えられるのはイヤだよな」
「いや……、……そうじゃなくて……」
 瞬間的に沸き上がった情動は、しだいに困惑へと変わる。おれ自身もなにを言えばいいのかわからず、それでもなんとか絞り出そうとした声がぐぅ、と喉の奥から這い出した。元々垂れがちな目を眉毛と一緒に下げておれに謝る高校生。初見の名前を読み間違えただけで、そんなに謝る必要はないのに。だが、そうさせているのはおれだ。おれの言葉がキツすぎた、そのせいなのだ。
「……あのさ、男にミドリって名前、……その、おかしいって、女みたいって、思わないのか」
 じっとりと嫌な汗がにじむ手を握りしめながら、恐る恐るそいつに尋ねる。ギリギリと喉を締め付けられるような痛みに襲われながら。彼が一瞬でも“そういう”表情をしたらどうしよう。頭の中はその想いでいっぱいで、その反面、何も考えられないぐらい真っ白だった。
 剣と魔法の世界を旅する主人公たちがとある国でみた、死刑宣告を今まさにそのとき、受けようとしている村人の気分だった。
「別におかしくはないだろ。オレだって、結構女の子みたいな名前ーって結構言われることもあるけど……うん、やっぱおかしくないって」
「……女の子みたいな名前?」
「そ。オレ、若里春名っていうんだ。はーるーな」
「は、春名……」
 机の上に出ていたシャーペンを数回ノックしてから、おれのノートの端っこに“春名”と丸文字で書かれるそいつの名前。半ばうわごとめいてそのまま音読すると、そいつは……春名は、にっかりと笑った。
「まぁ確かに名前で男っぽい印象とか、そういうのはあるかもしんねーけど……でも、知り合ってしばらく経つだろ?だからさ、お前がミドリって名前って知って、なるほど!ってオレは思ったよ。……えーと、どっちの性別っぽいか、とか考える前に、これがミドリの名前だったのか!って。……って、あれ?ミドリって名前じゃないんだっけ?」
「……、うん、おれは、ミドリじゃない」
「あっ……ご、ゴメン」
「違う……そうじゃなくて、あ、謝らないでほしい……ごめん、その、ありがとう、ごめん」
「おお?どうした、大丈夫か……?」
 もう遅いかもしれないけど、潤んだ目を見られないようにうつむいて、服の端で目尻を拭う。春名はただ単に自分の意見を言った、それだけのつもりなのかもしれない。でもおれにとっては、おれ自身が肯定されたような、そんな風に思える心強い言葉だった。
「おれの名前、ユカリって言うんだ」
 ミドリじゃないからな、と、ふたつの漢字を並べて書いて指をさす。文字を見比べた春名はようやく合点がいったと膝をたたいた。
「そんな、アハ体験したみたいな顔されても……」
「へへ、読書だけじゃなくて、漢字の勉強もしなきゃダメだよなぁ、オレ……。でもさ、今回ので縁と緑の見分けはバッチリつくようになったぜ、これからは絶対間違えない」
 な、ユカリ。家族以外に呼ばれることがほとんどない自分の名前は、思った以上に落ち着かない気分になる。それをごまかすためにおれはノートや教科書をまとめ、そして提案した。
「……やっぱ、今からドーナツ食べよう。なんかお腹空いてきたし」
「おっ、待ってました!へへ、ユカリがどういうドーナツ好きかわかんなかったから、いろいろ買ってきたんだぜ。オレのオススメも食べてみてよ」
「まっ、ばっ、ここ、飲食禁止ですけど!?外にベンチあるから、そこで食べるよ!」
 早速と言わんばかりにドーナツの箱を開け始めたので慌てて手で遮った。一瞬開いた隙間からドーナツの甘い匂いがあたりに漂う。あっヤベ、と顔に書いてあるのがありありと見てわかる。そんなにこう、判断力が鈍るほどドーナツに対して盲目なのだろうか。
 まとめた荷物を肩にさげ、はやく行こうと急かす春名に手を引かれて外へと向かう。刺すように冷たい風が吹き抜けるが、日向で過ごすぶんには耐えられないほどじゃない。歩きながらオススメのドーナツを延々と語る春名に気が早いよとつっこみつつも、人が楽しそうに話すのを聞くのも楽しいな、と少し笑った。


END
2017/10/08夢本市ぷちにて発行「よしなしごとたがり」より再録
あとがき