テオは仲睦まじい兄とその恋人とともに夕食の準備をしながら、悶々としていた。
悶々、と言っても二人に対して不満があるわけではない。全てはテオの中の問題であり、二人にはなんの落ち度もない。
いつもならば仲がいいことを喜びながら特に気にすることもなく流しているのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
「今夜、空いてるかい」
艶っぽい響きを含ませたルーカは意味深に微笑んでいた。その意味を察したテオだが、あいにくとノイズの家を訪問するという予定が入っていた。仕事に関係することなのでどうしても外せない。そう伝えるとルーカはまた誘うねと引き下がったが、自然にしていても恋人特有の雰囲気を醸し出す彼ら二人に当てられたのだろうか。いつもならすぐに切り替えられるはずなのにうまくいかなかった。
テオの前だからと気を緩めているのだろう二人の甘やかな会話を聞きながら時計をちらりと見る。もしこの用事が今日でなければ今頃はルーカと。
その考えが一度浮かんでしまうと、スイッチが入ってしまった。ここは兄の家なのだからと必死にクールダウンしようと試みるが下心を如実に表した妄想はなかなか消えてはくれずうまくいかない。本格的に、何をしているんだろうと劣情や羞恥心に挟まれながら自分を責めはじめた頃、蒼葉が声をかけた。
「――…あれ、テオ? 顔赤くないか?」
「……え、ええと……」
「ずっと黙ってたし、もしかして体調悪かったか?」
否定しかけて、ここ場から下がるにはいい機会だと思った。夕飯に誘われその言葉に甘えていた手前迷惑をかけてしまうが、実際のところ体調が悪いのとそう変わらない状態だ。仕事の話はもう終わっているからと、詫びを入れて帰宅の準備を始める。
「ゴメンな、気付かなくて」
「こちらこそすみません。せっかくの食事を……」
「テオ、送ってく」
「いや、大丈夫、一人で帰れるよ」
それでもノイズは送っていく、と繰り返したが、本当に大丈夫だからと強くいうと、あまり納得していない表情だったがややあって彼は頷いた。
玄関先で心配そうに見送る二人にもう一度謝り、玄関の扉が閉まったのを確認してからは、自然と駆け足になっていた。
そして、テオのとった行動は…――。
>ルーカに電話をする
>ルーカの家へ直接向かう
蜜柑とアイスの共存
break tea time
ルーカに電話をする
そのまま急いで帰宅し、ろくに上着も脱がないままテオはベッドへ倒れこんだ。息を整えようともせずコイルで呼び出すのは愛しい恋人のこと。
早く出てほしい。祈るように光学スクリーンを見つめていると、すぐに呼び出し画面から彼の名前へと変わる。
『やあ、テオ? どうしたんだい』
「……、ルーカ……っ」
彼の声が耳朶を通してじんわりと脳髄に響く。浅い息をやっと深く吸って、吐いた。その音が聞こえていたのか、ルーカはもう一度問いかける。
『テオ、走ってた?』
「――…うん、……ちょっとね、」
『何か急ぎの用でも?』
「ああ、ええと……その、ルーカの声が、ききたくて」
『――…』
まだ治らない呼吸を落ち着けるように話すと、通話の相手が黙ってしまった。
「……ごめん、ルーカの誘いを断ったのは僕の方なのに」
『いいや、……いいや? おれだって、テオの声が聞きたかったよ。もう今日は君と触れ合えないと思っていたから、君が電話をくれて嬉しいな』
昼間聞いた時のような、艶のある声色が背筋を伝い、腰に甘い痺れを覚えさせる。きっと、電話口で彼は微笑んでいるのだろう。いつも見ているあの口元のほくろが、あの魅力的な唇が、テオと会話をするために動いている。
欠片でも彼のことを想像すると、もう我慢はできなかった。ベッドに寝転んだままベルトを外し、前をくつろげると、テオの中心は既に芯を持ちつつあった。
(――…声を聞いただけで、こんなになるなんて)
恥ずかしい。そう思うが、今のテオにとってはその羞恥心すらも快感を受け取るための手助けとなる。そろりと下をなぞれば、腰へ直に重たさを感じた。ゆるい動きで竿を擦りながらルーカに返事をする。
「ルーカは、今は何をしてたの、?」
『さっきまで風呂に入ってたよ、上がったら、ちょうどタイミングよく君から電話が来たんだ』
時計を確認すると、夕食には遅いこの時間はシャワーを浴びるにはちょうどいい時間帯だ。タイミングが合い電話が通じたことに安堵して、風呂上がりの彼が脳裏に現れる。彼はいつも、しっかりと髪を乾かさないで風呂場から出てくる。風邪をひく、と注意をしつつも彼の髪を乾かしてやるのはルーカに甘えられているようで心地よかったし、彼のしっとりとした髪の感触も気に入っていた。
彼の香りを思い出して、また腰が重くなる。一定の速さで擦り続けている中心はすっかり硬くなっていて、先走りの汁が手を汚している。
頬を上気させながら暑い、とテオは思った。汚れた手で触れないよう慎重に上着を脱いで、クローゼットへしまう余裕はないのでそのままベッドの端へ避ける。シワができてしまうが、そんなことには構っていられなかった。
『……もしかして、帰ってきたばかり?』
「……うん、そうなんだ」
『ふふ、そんなにおれの声が聞きたかったの?』
「……うん、ルーカの声が、……っ、聞きたかった。ずっと、ルーカのことを、考えてたんだ」
本当は会いたかった。しかしそれは叶わないので電話をした。吐精感が高まり、自然と竿を握る手が速くなる。快感を身をまかせるように目を閉じると、潤んだ瞳からぽろりと涙がこぼれた。
『……テオ、愛してるよ』
少しの含み笑いをしたような音の後、とびきりの甘い声でルーカが囁いた。ルーカは度々愛の言葉を口にするが、今聞いたものは二人きりの時に囁く色をしている。
響く低音は、容易くテオを絶頂へと導いた。脈打つ自身がおさまるのを、身体を快感に震わせながら待つ。上ずった声と吐息をマイクが拾わないよう、口元に枕を押し付け必死で押し殺した。
射精が終わり噛み締めていた唇を解く。同じ言葉を返すとくすぐったそうな笑い声が聞こえてきて、愛しさに胸が締め付けられる思いだった。そんな声を聞いてしまうと一度では足りないと、テオの中心はまたすぐに首をもたげ始める。
「……っ、ルーカ、今日は、どんなことがあったの? 君の話が、聞きたいな……」
『うん、いくらでも話すよ』
今日は何があった日だったのか、そう聞くと彼は大抵すらすらと語り始められるようで、彼は話題を無尽蔵に持っている人だった。先ほどより幾分落ち着いた声色になっているが、いつも聞いているこの柔らかな音はテオに安堵感をもたらす。熱っぽい吐息を漏らしながら、テオは擦る手を止めない。
「……ふふ、そんなことが、あったんだ」
楽しげに話す彼につられてテオも笑う。日常会話をしながらその裏では自身を慰める行為に耽っている、その背徳感はさらにテオを追い立てていった。もうそろそろで二度目の絶頂を迎えられそうだ、と指を竿から少し位置をずらしたところで、ねえ、とそれまでの話を区切ってルーカが問いかけた。
『……テオ、もしかして一人でお楽しみかい?』
「……、え」
ぴたりと手が止まり、背中に氷を差し込まれたような錯覚に陥る。あまりの唐突さに否定も肯定もできずにいると、少ししてルーカの噛み殺した笑いが聞こえてきた。ついで告げられた言葉は、より深くテオの中へ入り込む甘さを孕んでいた。
『……ふふ、本当にそうなんだ? ……いけない子だね』
ずくん、こんな状況にもかかわらず腰は快感を甘受する。今にも沸騰しそうな思考でテオは小さくどうして、と呟いた
『わかるさ、だって君、全然息が整わないんだもの』
それになんだか声がかすれているし。そういう彼の言葉は確信に満ちていて、すぐに何故バレてしまったのかという疑問よりもバレてしまったことに対する羞恥心が大きくなっていく。
「ルーカ、ごめ……」
『まってテオ、謝らないで。おれべつに怒ってるとかじゃないんだ、テオは悪いことをしたわけでもないしね。――…ただ、おればっかり話すんじゃなくてさ、……おれも君の声を聞きたいっていったの、覚えてるよね?』
ルーカが何を言いたいのかはハッキリしている。つまり、一人で声を抑えていたテオに、それをやめて電話越しに声を聞かせろ、と言っているのだ。
震えた吐息を漏らすテオに、ルーカはまた囁く。
『テオ、テオ。聞こえてる?』
「――…きこえ、てるよ」
『おれと話してる間に、何回した?』
「……っ、……まだ、一度だけ」
直接顔を見られているわけでもないのに、熱い頬を隠したくて枕に顔を埋める。何より恥ずかしいのは回数を口にしたことではなく、こんな状況においてもなお硬さを増す自身についてだ。
一人でしていることを、ルーカに知られている。恥ずかしくてたまらないはずなのに、そう思いながらも擦る手は止められないまま熱のこもった息を吐き出した。
「っルーカ、……ぁ、ぅく……」
『……ほんとに、おれの声を聞きながら感じてるんだね、テオ、大好きだよ』
「……、っふ、ルーカ、ん……っ……?っ!!」
彼の言葉につられるようにして、二度目の射精を迎える。無意識に多少抑えたものの、先程のように枕で押し殺すようなことはしていない。ルーカが聞きたがっていたとはいえ、そのままマイクを通ししまうのはまるでテオがルーカに聞かせているようで、余韻とともに再び羞恥心が迫り来る。
(聞かせてるみたいもなにも、そもそも全然隠せてなかったし……)
息遣いが整わないだとか、そういう理由で一人で自慰行為をしていたのがバレたのだ。身体の熱を発散したいばかりで注意散漫になっていたとしか思えない。射精後特有の倦怠感を覚えながらもなんとか起き上がり手を拭うと、遠慮がちに声をかける。
「……ルーカ、えっと……」
『なんだい、テオ』
テオを甘やかすときの声色をしている。そのことに少しバツが悪くなりながらも彼に話しかけた。
「その……君との話を断ったのに、結局こんなことになって……」
『んー? いいや、それはさっきもいいって言っただろう?君の新しい一面も見れたしね。……あー、でも、その……出来れば、明日はカフェに来ないでもらえるかい』
「――…えっ、や、やっぱりその……っ」
気まずそうに言うルーカにテオは冷や汗をかく。やはりまずかっただろうか。いや、電話口で相手が一人でしていたらそれはまず引くだろうが。
しかし、ルーカはやや恥ずかしそうに笑いながら話を続ける。
『おれの方が仕事にならなくなっちゃう。……ねえテオ、明日の夜は空いてるかい』
誘いの言葉にシーツをきつく握りしめた。彼の言葉がなにを意味するのかは明白だ。
「……勿論、空いてるよ」
そう答えた声が震えていないことだけを願う。
ルーカの家へ直接向かう
兄達の家から出た後、一心不乱に走りたどり着いたのは恋人の家。呼び鈴を鳴らすとしばらくして扉が開かれる。その表情は驚きに満ちていて、彼の顔を見た瞬間、会いたかったという感情が抑えきれずに彼の身体を思い切り抱きしめた。
「ルーカ……!」
「わっ、テオ……?! どうしたんだい、今日は予定があるって……」
「用事は早めに切り上げたんだ。急に来て、本当にごめん。……でも、どうしても、ルーカに会いたくて」
そっと抱き返す手の感触を背中に感じた。服越しに感じる彼の体温はテオに安心をもたらすと同時に、物足りなさも感じさせる。少し身体を離して彼の表情を伺うと、まだ驚きの色が抜けない瞳とぶつかった。そのまま吸い寄せられるように、彼と唇を合わせる。
「テオ、……ん、んぅ……」
「……っは、ルーカ、ルーカ……」
際限なく彼を求めるように深く口付けていく。舌を絡めて、上顎をくすぐればくぐもった声が彼から漏れた。自分のものと相手のものが混ざる唾液を飲み込むたびにくらくらとする。やがて名残惜しげに身体を離し、荒い息を整えようとぼやけた頭で彼の名前を呼ぶ。彼の唇は唾液でぬらぬらと湿っていた。それを見せつけるように舌で舐めとり目を細める。
「……我慢できなくておれに会いにきたんだ? へぇ……? ……ここじゃなんだから、はやく中に入ろう」
頷き、促されるままに彼の家の中へ。ここにきたのは何度目かわからないくらい、すっかり馴染み深くなった部屋。徐々に増えていくテオの私物。食器棚にしまってあるテオ専用のマグを見つけて、じりりと胸の奥が燻った。
鍵をかけたルーカがテオを後ろから抱きしめる。うなじに舌をはせてはリップ音をたてながら、服の裾から手を侵入させていく。
「テオ、汗かいてる。シャワー浴びる?」
「ルーカ……ごめん、我慢できない」
「はは、だから家まできたんだもんね。……ごめんね、もう意地悪しないよ」
テオの耳元で囁いて、服に滑り込ませていた手も引っ込める。代わりに寝室へと連れて行き、先にルーカがベッドへ倒れ込んだ。腕を広げてテオを誘う。
「おいで、テオ」
「……ん、」
続いてテオも横になった。互いに触れながらみつめては、唇を重ねる。少し落ち着いたように思えても、それ以上に熱情は燃えていく。すでに風呂に入った様子のルーカは薄着だがテオはいつも通り着込んでおり、テオがルーカを脱がせ終わった後も、まだテオはシャツを身につけていた。シャツ越しに胸を弄り、尖ったそれを爪でひっかくと鼻にかかった声が漏れる。
「……、んん……」
「服の上からされると、くすぐったいでしょ? っん、ふ……」
お返しとばかりにテオは直にルーカの胸に触れた。くすくすと笑う彼にもう一度口付けると、再びテオのシャツを脱がせようとボタンに指をかける。
「……テオ、キスするの好きだよね」
「ええ? いつもしてくるのはルーカの方だよ」
「おれはキスするの好きだもん」
「……ルーカがいつもするから、うつったんだよ、きっと」
「ふふ、ならもっとしないとね」
ルーカの言った通り、テオはキスをするのが好きだ。触れたときの感触が心地いいというのはもちろんだが、加えて情愛の表現としてのものだったり、そういったものとセットとしてついてくるもので。ルーカからのキスはその表現としてはきっと、これ以上ないくらいに適切だ。だからこそテオもよくキスをするようになったのだろうし、照れ隠しのように聞こえたかもしれないうつった、という言葉はあながち間違っていないとテオは思っている。
ルーカがやっとテオの服を脱がせ終わったころには、お互いの首や胸元には赤い斑点が浮いていた。触れ合う中で気付いてはいたが、テオのものはすでにすっかり上を向いている。その輪郭をなぞるようにしながら囁いた。
「もうこんなになってる」
「……ん、だってキス、きもちいい……」
手の動きがもどかしいのか、びくびくと震えながらテオは自らゆるく腰を揺らしていた。彼の姿にルーカも腰の痺れを覚えながら、自身のそれとテオのものを合わせる。
「あ、アッ……」
腰の動きに合わせて凹凸が擦れ合う。色も形も違うそれを見下ろすと、彼との違いがより明確にわかってより興奮を煽った。先走りでぬめつく竿をテオの美しい指が撫であげれば一気に吐精感が増す。
「っ、は、テオ……、ぅ」
「ルーカ、……僕も、……っ」
ほぼ同時に達した。お互いの手が白濁液で汚れているのがなんだかおかしくなり、肩で息をしながらどちらともなく笑う。
サイドテーブルの上のティッシュ箱をたぐりよせてねばつくそれを拭った。少しベッドから離れたゴミ箱に投げ入れようとして失敗したのを、テオがまたくすくすと笑う。肩をすくめたルーカがベッドから降りようとしたところで、うなじに柔らかくキスが落とされた。
「ルーカ、もう一回しよう?」
「……いいよ?」
承諾の返事をすると一瞬だけ抱きすくめられ、首元をやわく噛む。すぐにテオは離れていったが、ルーカの胸は高鳴りを止めない。あくまでも冷静を装ってゴミ箱から外れたティッシュを捨てるが、今すぐ抱きしめてしまいたい気持ちでいっぱいだった。しかし「もう一回」の準備をしているテオもテオで同じくらい胸の高鳴りを覚えるので、結局は表情を緩ませるだけに留められる。
バスタオルを敷いたテオが勝手知ったる様子でラックからローションを取り出し、少し迷った様子でそのまま閉じた。ベッドの軋みでルーカが戻ったことを悟り、テオは振り返って尋ねる。
「……ルーカ、今日」
「うん?」
「……ゴムなしでもいい……?」
流石にこの質問ははずかしかったのか、テオの頬はうっすらと赤く染まっていた。先程の抱きしめたい、という気持ちが一気に膨れ上がったルーカはテオを抱きしめて、そのままの勢いでベッドに寝転ぶ。驚きの声をあげるテオにたわむれのような口付けを繰り返して尋ねた。
「なんだい、テオ、今日はえっちだね」
「……?っ、そうだよ、僕、今日はそういう気分なんだ、」
「あとで一緒にお風呂入ってくれるならいいよ」
「、……わかった」
熱っぽい、ありていに言えば欲を隠す気もない視線を送り、テオはルーカに跨った。先程射精したばかりなのにもかかわらず、テオのものはすでに復活しつつある。ローションを手に垂らして窄みをほぐしていく姿にルーカは喉をならした。馬乗りにされたまま、腹にこぼれ落ちたローションをなぞってテオの窄みへと手を伸ばす。目を閉じてほぐすことに集中していたテオは触れるまでルーカの手に気がつかず、びくりと肩を震わせた。
「っまって、ルーカ……、だ、だめ」
「だめ? 目の前にテオがいるのに、おあずけ?」
「そ、言うわけじゃな、けど……っァ、ひ、ま、って……ルーカ、ぁ」
ローションの滑りと徐々にほぐれてきたこともあり、テオの指とルーカの指を一緒にのみこんでいる。浅いところの挿入を繰り返すルーカの手に甘い快感を覚え、言葉を返すのも途切れ途切れになったテオは快感から逃げるように腰を浮かせるが、かえってルーカが弄りやすい体勢になってしまう。
「ルーカ、ほんと、にっ……だめ、まっ……あ!、ぁ」
慌てたように指を引き抜き、弱々しくルーカの肩を掴んだ彼はすでにとろけているように見えた。口から漏れているのは喘ぎ声だけではなく、それはぽたぽたとルーカの口元に垂れていく。
「っわ、……ぅ、ルーカ、ごめ、んっ……」
テオの唾液だ。拭おうとして肩を掴んでいた手を伸ばすと、ルーカは彼の指に舌を這わせた。きゅう、穴をいじる指が締め付けられる。ルーカは一旦彼の後ろをいじるのをやめて彼に懇願した。
「ねえ……テオ、キスして?」
「……」
加えられた指で、ルーカの赤い舌をまさぐる。くちゅ、淫猥な音が、粘度をもつ唾液が、てらてらと室内の明かりを反射する唇すべてがテオを誘う。唇と、舌との両方を彼のものとぺたり合わせ、やわらかにうごめく感触に浸る気分は酩酊感とそっくりだった。
キスに夢中になっていると、やがて動きを止めていたルーカの指が抜かれ、テオの尻に熱いものが触れる。興奮と期待に胸を膨らませると、すぐに圧迫感は訪れた。
「……ぁ、ふっ……あ、あ」
「っく、ぁ……! テオ、っんん……」
ぞわぞわとした快感が背筋ごと貫いていく。内壁を擦られるたび、口から漏れる声は彼とのキスによりくぐもったものへと変わっていく。気持ちいい、それだけが頭の中を占めていた。思考がどろどろに溶けて、彼と触れているところから身体もいっしょに溶けていってしまうんじゃないか、そう思わせるほどの快感。コンドームをつけていないから、という理由だけではない。いつもより抱えていた劣情が大きかった反動がよりこの快感を生んでいる。
ちかちかと視界がちらつく中、テオは目を閉じていた。ルーカと触れている箇所からの快感をより受け取るために、舌と舌をこすり合わせて、隙間から唾液が伝っていくことなど気にせずただお互いが気持ちよくなることだけを考えていた。
「ルーカっ……っは、ァ……僕、も、限界……」
「は、……テオ、おれ……おれも、イ……っ」
結合部から卑猥な音が聞こえ、それすらも気分を昂らせる材料となる。違いの息遣いを感じながらグラインドを続けていく。びく、身体を震わせ、先に限界を迎えたのはテオだった。絶頂をこらえるためルーカにすがりつき、身体の芯から溢れていくそれを受けとめていく。その際の急激な収縮によりルーカもテオの中に欲を吐き出した。その感覚がテオの絶頂をなおさら煽り、荒い息となって変わる。
そのまま、どれくらい抱き合っていただろうか。ふわふわとした快感からやっと顔を上げたテオは、間近に見つめるルーカからすこし身を引――こうとして、まだ繋がったままだったことに気がつく。
「……み、見てたの」
「そりゃあね」
聞いたのは自分だが、頷かれると恥ずかしくなるのは当然だろう。誤魔化すように抜くよ、と声をかけて腰を持ち上げた。やはり余韻があのか、まだ背筋をかけ上る快感には息を呑んでなんとか耐える。
ルーカの横に寝転んで、脱力感に身を任せた。劣情を吐き出した身体は、今度は睡眠を求めて先程と似たような心地よさでテオを誘うが、それをとめたのはルーカだった。汗で額に張り付いたテオの前髪を横に流して、ルーカは穏やかな声色で話す。
「テオ、お風呂入る約束」
「う、ん……」
「眠いならおれが連れてくけど、自分でやらないと、またエッチな気分になっちゃうと思うなぁ」
「……うん」
頷いているのか唸っているのか、その中間くらいの曖昧さでテオは身を起こした。テオの中には、まだルーカが出したものが残っている。その後処理をしなければならない。風呂場で三回目、というのも今までになかったわけでもないが、明日は平日なので流石に次の日に響いてしまいそうで、それは流石にセーブしなければ、と思う程度の理性は戻っている。
「……ルーカ」
「なんだい」
ちゅう、と音を立てて彼の額にキスを落とす。すこしの塩気を感じた。彼からも同じものを返されて、そうして、先程まで使っていたバスタオルと一緒に風呂場へと向かっていった。
18/3/16
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