蜜柑とアイスの共存

ぼくのSubの二宮さんがあまりにもズルすぎる


リクエスト:年齢そのままでちょっとエッ…なやつ
※明確な描写はありませんが未成年と成人の性行為を匂わせる描写のためR-15。夢オチ。二宮さん×夢主っぽい


 白いシーツに投げ出された少年の腕は成長途中のしなやかさに包まれていた。ほどよく日に焼けた健康的な肌に指を滑らせれば、くすぐったいのか指先がひくひくと断続的に震える。親指と人差し指だけで一周してなお余るほどに華奢な手首を通り、震える指先をなだめるようにこの指を絡めた。
 少年一一柳瀬は、二宮にベッドへ組み敷かれてなお不安げな表情は見せなかった。彼を受け入れているのか、それとも単純にこの場所でこの姿勢でいる意味を理解していないのか。一一否、いくら彼がまだ義務教育中の身とはいえ、標準的な知識くらい持っていることはなんとなく、これまでの口ぶりから知っている。
 嬉しそうに絡めた指を握っては放してを繰り返す彼の額に口づけを落とした。すると彼はよりいっそう笑みを深くして喉元を晒す。口にせがんでいるのだ。言われずともするつもりだったそこにも唇を重ねて、少しずつ長くしていくと次第に艶やかな声が混じりまた息も荒くなっていく。空気を求めて開かれた隙間に舌を差し込めば、驚いたように彼の舌は一瞬引っ込んだ。しかし、やはりすぐ二宮へ身体を預けるように舌と舌が触れ合う。ぬろ、独特な感触に目を細めて、力の込められた指先も甘い痺れへ変換された。
 空いていた方の手を裾の下に滑りこませる。相変わらず筋肉どころか脂肪もろくについていない薄い腹だ。なめらかなそこを指先でなぞるように触れながら、服をめくりあげながら手は徐々に上っていく。
 次第に指先は汗に湿り、彼の頬も色づいていく。いとけない身体とは不釣り合いな表情は、しかし二宮との更なる触れ合いを望んでいる。幾度も繰り返される口づけに合わせて彼の指は二宮の耳や首元をくすぐっており、より二宮の官能を煽っていた。
「……っ、あ、あ……にのみやさん……」
 薄い皮膚の下にある肋骨をなぞっていると、互いの唾液で唇を濡らした柳瀬が切なげに目を細めた。返事の代わりに唇を離して、どうしたのかと瞬きで問いかける。
 ぎゅう、と指先を握られた。ふふ、と肩を揺らして笑い、二宮を見つめ返す。
「……すき」
 二宮は言葉ではなく、彼の息まで飲み込んでしまうほどの深い口づけで答えた。

 鶏が先か卵が先か。覚えている限りで、おおよそ年少者へ向けるべきではない欲望に気が付いたのは彼が指先についた菓子の残骸を舐めとっている時だった。自分で舐めてしまうくらいなら二宮へ命令してほしかった。ただ一言舐めろと言われれば爪の隙間まで隅々、指先がふやけてしまうまで、綺麗にしてみせるのに。これまで己の性的嗜好に変わったものはないと認識していたが、こと柳瀬においてはどこをとっても舌の上に乗せたいと、すべてを食んで、なぞりたいと思ってしまう。
 それでもこれはきっと、そう変わった趣味でもないのだろう。ネットで検索すれば肉食獣の捕食につながるそれであったり、はたまた犬や猫が子供を移動させるときの行動。あるいはキュートアグレッションという単語もでてきた。何かを口に含むという行為はきっと、動物的本能と深いつながりを持つ普遍的なものなのだろう。でなければそもそもディープキスという単語すら生まれないはずだ。
 めくったシャツの中身。舌先を尖らせて彼の腹やへそをなぞった。ひく、腹が震えて、舌先に押し当てられたり逆に離されたりする。返ってくる反応に気分を良くすれば止まろうとも思わなった。皺もふちの部分も余すところなくなぞりきって、まだ服をまとったままの胸のあたりまで舌を這わせていく。途中横道へ逸れて肋骨をなぞると、腹よりも感覚が敏感なのか彼の漏らす吐息はより性急なものになりつつあった。
 かぷ、かぷ、歯型すら残らないような強さで軟い皮膚を挟めば、ずっと細かく声を上げていた柳瀬がついに二宮の頭を抱きしめた。けれど、止めるというには力が弱々しすぎて二宮を煽る興奮材料にしかならない。尤も彼も止めようとしているだけではなく、縋りつくものが欲しいだけなのは二宮もわかっている。どうしてわかるのかといえば、二宮がいつもプレイで──特に知らず性感を高められたときの様子と、こうなった彼とは共通点があるからだ。
 息も荒くかすかに漏れ出る声は甘い。我慢していたものの次第に露骨になっていく、彼が思わず、といった様子で腰を押し付けるような動作は二宮の腹に固い感触を覚えさせ、ご褒美を得たときと同じように頭が心地よく痺れていく。
「たつき」
 欲に塗れた声だった。呼ばれた彼はうっすらと目を開けて、二宮とおなじ欲情の色をまとわせた瞳をゆっくりと瞬かせた。二宮は命令を乞う。この先言われることを想像するだけで、飲み込んだばかりの口内に唾液があふれかえった。
「あっ、もっと、……もっと、して」
 たどたどしい言葉はコマンドに不慣れな子供のようだった。けれど二宮は従順なSubだ。口では相変わらず彼の肌を愛でながら、張ったそこをゆるく撫でてそっと指を滑り込ませた。



 スズメのさえずりが聞こえる。二宮はベッドから起き上がり、まだ爪先を夢の中へ浸しながらぼんやりしていた。
なんという夢を……そう呆然としつつ、いわゆるまぐわいの最中ではなくその前座の段階であることをどう捉えればいいのかしばし悩む。
 夢の中の行為は無論現実ではしていないし少なくともあと数年かはするつもりもないが、触れていた箇所も含めすでにしていることの延長線上にあることだ。腹はともかく、肋骨へは直に触れたことはないはずだけれど。
 妙にリアリティのある舌や手の感覚を思い出してすぐに振り払った。夢は記憶の整理だというけれど、夢の中での感触は記憶の中から似たものをあてがわれるのだろうか。だとしたらあれは、柳瀬の感触ではない。けれど想像したことがないかといえば嘘になる。あれが過去の経験からくるものなのかそれとも妄想の産物なのか、二宮自身にもわからなかった。
 人並みの欲はあるが、彼が大人になるまで手を出すつもりはさらさらない。一方で恋人なのだから、欲求不満からくる淫夢を見ることも、場合によってはあるだろう。それぐらいの開き直りはできている。罪悪感という意味で言えば彼と付き合い始めるよりも前、プレイで興奮を得てしまったときの方がよっぽど大きかった。
 要するに、彼に知られなければ、勘付かせなければ問題ではないのだ。
 夢のせいかそれとも寝起きのせいなのか。重さを醸し出す布団の中身を感じ取り、顔を洗うことよりも前に割り込んできたタスクを消化するため布団をめくりあげた。



2023/07/21