蜜柑とアイスの共存

満月シロノ

エイプリルフール

「じゃ、ジャーファル!」
「おやバドル、こんな時間に珍しい……どうしましたか?」
「う、あの……えっと」
「?」
「その、……だ」
「だ?」
「……やっぱり無理ぃいごめんなさぁあい!!」
「あっ、ちょ、バドル!? 待ちなさい!!」
 いつもおとなしいバドルがいきなり大声を出し涙目で走り去ろうというのならそれは注目をあびるのも当然であろう。
 なんだなんだとざわつく周囲。
 親代わりのジャーファルや八人将であるシャルルカンらから直々に教授されそこそこ戦えるとはいえ、やはり師匠には到底勝てそうにない。
 数十メートルも走らない内に捕まり、泣きべそをかきながらのジャーファルのお膝の上。
 あやされながら事情を話していた。
「エイプリルフール……? ああ、確かにそんなものもありましたね……」
「そ、れでっ……本当のこととは逆のことを言わないといけないって……」
「本当は私に何て言おうとしたんですか?」
「……ぅ」
「バドル?」
「言ったら……嘘になっちゃいます……」
 ぐずぐずと鼻をすするバドルに周りは仕事も手につかない。
 おそらくシャルルカンあたりにけしかけられたのだろうが、純粋な子ども心を弄ぶとは、許せん。
 さらさら指通りの良い髪を弄り、バドル、優しく声をかける。
「大丈夫ですよ、バドルがそれだけ強く思っていることならば、絶対嘘になるはずがありません」
「……」
「そうでしょう?」
「……はい」
「教えてくれませんか?」
「……あの、ですね」
「はい」
 今度はもじもじと、恥ずかしそうに顔を赤らめ中々言い出せない様子。
 何を言おうとしてくれていたのかはこの反応で大方予想がつくのだが、こういった大事なことはやはり本人の口から聞きたいというもの。
「……あの、ぼくが、ジャーファルのこと、……」
「はい」
「……大好きだって」
「……~っもう、君って子は……!」
 耳元ではにかみながら教えてくれた言葉。
 ジャーファルは歓喜に肩を震わせ、既に腕の中にいるバドルをぎゅう、と抱きしめる。
 驚きの声が聞こえたが、すぐ嬉しそうに笑う声がもれる。
 額と額をこつんと合わせて呼び掛ける。
 綺麗な紅い瞳と黒檀の瞳が合う。ぱちりひとつ瞬きをして。
「バドル、そういうことはもし嘘をついたとしても、私には解るので大丈夫ですよ」
「……わかる、んですか?」
「ええ。バドルのことはなんでも」
「なんでも……」
「だってねぇ、私もバドルのこと、大好きなんですから」
「……ほんとうに?」
「知っているでしょう?」
「……はい、知っています」
 バドルがジャーファルの首に手を回す。
 同じ年代の子よりもいくらか小さい身体だが、内面はとても豊かに育ってくれて、とても嬉しく思う。
 愛していますよ、そう告げて、何度も頬にキスをおくった。
 
 *おまけ
「……ところでバドル、君に嘘をつかなければならないと教えたのは誰ですか?」
「シャルルカン様です」
「ほお……なるほど、わかりました」
「(((シャルルカン様逃げてー!! )))」