蜜柑とアイスの共存

If 元主将がグレた/

   
「……まいったな」
 今年できたばかりの新設校を選んだのが間違いだったのだろうか。
 大き目の学ランを着て音のでないヘッドフォンをつけた少年―――小豆澤佑はそう独り言を呟いた。
 苦手な年上がいないという理由が不純だったのだろうか。自分としてはこれ以上に無い魅力的な条件だったのだが。
 まさか、バスケ部が無いなんて。
 いやしかし、行く高校が決定した頃に己が無理に背負い込んでいたものにやっと気がついたのが一番の原因だろう。
 なんとなくではじめたバスケ。いくら好きだといっても所詮部活動で、という枠内での話しなのだが。
 だからといってその部活自体がないというのは、拍子抜けというかなんというか。
 どうしようかなぁ、とぽつり洩らし、清々しい青空を眺めていた。
 ら、肩を叩かれた。
「お前、帝光中の小豆澤だよな?」
「……あぁ、そうだけど」
「よかった! 俺は木吉鉄平。バスケ部はいらないか?」
「……バスケ部って、ないんじゃなかったのか」
「だから作ることにしたんだよ」
 ヘッドフォンをはずし見上げると柔和な笑顔。
 その笑顔に見覚えがあり、あ、と小さく呟いた。
「お前……照栄中の? 前に試合したことあるよな」
「お、覚えてたのか。……で、どうだ? 今のところもう五人そろってるんだが」
 断る理由はどこにも無かった。
   *
  「おーい! 前行ってた奴連れて来たぞ!」
 うなずくやいなや、そうか! といってなおさら嬉しそうに顔をほころばせた木吉に腕を引かれ。
 佑のクラスとは別の教室に連れ込まれた。
「……小豆澤佑、です……?」
 ちなみに現在放課後なので、教室にいる人影は自分達以外はない。
 見つめられ、名乗ったものの言葉が尻すぼみになっていった佑に眼鏡の少年が声を上げた。
「小豆澤って……おま、帝光中じゃねぇか! おい木吉どういうことだ!?」
「どういうことって……この前廊下ですれ違った時に知ったから、勧誘して来た」
「キリっとした顔してんじゃねーよ!」
「……え、俺きたら駄目だったの……か……?」
 ぎゃーぎゃーと喚きたてる青年に木吉が斜め上の言葉を返す。
 それを眺めているほか三人にそう問うと、彼らは首を横に振った。
「いや、あいつ……日向っていうんだけどな、日向は帝光中に試合で負けて心が折れたとかで、ちょっと前までグレてたんだよ」
「グレてた……?」
「金髪でロン毛だった奴みてねぇ? アイツ、日向な」
「金髪ロン毛……」
 見たことが、ある。みるからにヤンキーっぽかったために全力でさけていたが。
「……あぁ! あいつか」
「そうそう。……あ、俺は伊月俊」
「俺は小金井慎二な! こっちは俺と同中だった水戸部凛之助」
 水戸部と呼ばれた長身の彼がぺこりと一礼をしたのでよろしく、と佑は返す。
 そして、未だに言い合いを続けている二人の下へ近寄り日向に声をかけた。
「……、日向!」
「ああ"!?」
 ぎろ、とにらみつけられひるむが、精一杯視線を合わせつつ、言う。
「……俺は、確かに帝光中出身だ。けど、今は誠凛生なんだ。……これからは、同じチームメイトとして一緒にやっていきたい、から……だから、これから、よろしく」
 いい終わり、速効で目を逸らした。だめだ、これ以上耐えられない。
 しーんとした空気をいたたまれなく思っていると、あー、気まずそうに日向が洩らした声に顔を上げた。
「……俺も、過剰反応しすぎた。……、日向順平だ。……よろしく」
 気恥ずかしいのか頬を指でかり、とひっかく姿に、佑は走行を崩す。
 それと、と言葉を続ける日向にうん、と相槌を打つ。
「……まだ指導者とか決まってねーから、部活は始めれねぇぞ」
「……え?」
 前途多難なようだ。
   
 
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12"10/19
if話の中でも元主将個人設定は基本本編と同じです。
出す機会がなかった裏設定ちょいちょいだしてきます。
Ex)ヘッドフォン