蜜柑とアイスの共存

If 元主将がグレた/

「よくバスケやめなかったな」
 高校に上がり二年が経とうとしている今でも、当時を知る者はそう言う。
 当たり前だろう。一軍のみとはいえ、それでもそこそこの人数がいる中、下級生に一対一の勝負で惨敗したのだ。
「まさか、尚更頑張らないとってやる気になったよ」
 言われる度に、あくまでもにこやかにそう返してきた。
 そう言うと相手は苦笑し、「どんだけバスケ好きなんだよ」と。
 そんな訳があるか。
 元々バスケを始めたのは親が共働きで家に帰っても有り余る時間を埋めるためだった。
 他の、例えば野球でもサッカーでもよかったのだ。
 それでも、中学生でわざわざ受験をしてまで強豪校にいくぐらいにはのめり込んではいた。
 だが、その気持ちもあの一件以来急激に冷えていったのだ。
 天才と凡人の違いんまざまざと見せ付けられた。
 彼らの前では凡人の努力がどれほどあったとしてもものともせずに伸されてしまう。
 才能だけを鼻にかけている天才だったならばどうかは解らないが、なら、天才が努力をしたら?
 努力をすれば必ず報われる。なんて言葉はただの凡人の願望、幻想、空言にしかなり得ないのだ。
 それまで浮かべていた人のいい笑みを消し、数年前ならば嘘でも作ることができなかったような歪んだ笑みをつくって見せる。
 天才と凡人の違いを重い知った。ならば、何故バスケをまだ続けているのか?
 凡人が、凡人を潰す為だ。
 ただの僻みであり嫉みであり妬みであり、八つ当たりであるそれ。
 純粋にバスケを楽しんでいる彼らが、憎くて憎くて堪らない。
 潰すといってもどこぞの学校のようにラフプレーをするわけではない。あくまでも正当なバスケで、純粋に、確実に、潰すのだ。
 ダブルスコアやトリプルスコアは当たり前。徹底的に心を折って、バスケを嫌いにさせてやる。
 それだけのことができるチームを探すのには苦労をしたが、今となってはいい思い出というものなのだろう。
 対戦相手を徹底的に分析する。
 チームメイトからはよく「熱心だな」と感心を受ける。帝光中元主将という立場は、それだけでも相手の中でのとんでもないプラス要素になるのだ。



 そして、先日。
 かつて負かされた思い出したくもない過去話をしていると、その彼が盗み聞きをしていたらしい、彼は誤解だったのだと謝ってきた。
 表面上は何でもないように取り繕ったが、内面は大荒れである。当たり前だ。今の己は彼のせいなのだから。
 今さら謝って許してもらおうだと?虫がいいにも程がある。
 いらいらする。いらいらする。
 そして一旦落ち着いた彼は考える。
 今の状況を、利用できるのではないだろうかと。
 人知れず、唇の端を吊り上げた。とうとう天才を潰せる、またとない機会が生まれたのだ。これを逃すはずがない。
 かつて己を絶対零度の瞳で見下した彼は今やただの哀れな少年。
 清々しい程の歪んだ笑顔。

 さて、どうしてやろうか?


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12"10/17
このまま復讐という任務を遂行するもよし、ばれて矯正されるもよし。
どっちにしろ赤司君はぼろ泣きだろうから私としてはどう転んでも美味しいです。
これでラフプレーしてたらただのクズでしたね( ・´ー・`)