蜜柑とアイスの共存

08

 二年後。年末。
 WC会場休憩所にて。
「誠凛が優勝、かー……」
「去年、今年と破竹の勢いだったしなー。くっそ、練習試合では勝てたのになぁ……!」
「しかも三年いないから来年も戦力は落ちないだろ? すごいな……。あー、試合またしたい」
 硬貨を入れ赤く灯ったランプの中で少し迷い、桃色と白いラベルが特徴的な缶を選んだ。
 がごんっ、大袈裟な音に屈み込み、取り出す。プルタブを引き中身を一口煽れば広がる甘味。
「……甘すぎたかも」
「好きで選んだんじゃねぇのかよ……言っとくけどオレも甘いもんそんな飲めねぇからな」
「残しはしねぇよ勿体ないし。……中学んときは割りと普通に飲んでた気がするのになぁ」
「あー……あれじゃね? 味覚変わるってやつ。アズ高校入ってからやたら縦に伸びたし」
「味覚変わるって二十代過ぎてからじゃないのか……?」
「さぁ?」
 見つけたのはいちごオレ。数年振りにと懐かしくなって押したのがいけなかったらしい。
 しかも当然の如く青の冷た~い表記だったそれ。会場内は暖房が入っているとはいえ、もうすぐ年が変わるという次期に何故これを選んだのか。
「……やっぱ俺って馬鹿だよなぁ」
「……二年ぐらい前に初めて気付いたわ。オレは」
「俺も」
 WC決勝が終わりあまり時間がたってないというのに、人通りの全くないこの場所。マナーは悪いが誰もいないならばとベンチにごろりと仰向けに寝そべった。
 帝光中を卒業した後、二人は同じ高校に一般受験で進学した。
 示し合わせた訳ではない。そういやお前どこ受かった? え、マジで? オレもそこなんだけど。そんな軽いノリ。
 それなりにバスケで有名とはいえ、同じ中学出身の者がかなり少ないこの高校は自由で穏やかな校風で、それに倣ってか私服校。
 一言で言うと、佑にはぴったりな学校だった。
 のびのび生徒を育てる教育方針で、どちらかというと大学に近いらしい。
 部活動も穏やかな校風が表れ、勿論体育会系の厳しさはあるが息の詰まるような空気はない。
 当然、問題児もいない。
 中学までの己を知る人物が少ない。そして和やかな雰囲気が、小心者の臆病者の、つまらない殻を割らせたのだ。
 小学生の、かのエースにいった一言で始まった今の彼は高校生になりようやく落ち着いた。昔の佑も今の佑も否定することなく受け入れてくれた環境に恵まれたのは幸せだと実感する。
 現に、隣にいる彼が一番最初に受け入れた一人だった。
 日頃の運動で鍛えられた腹筋で起き上がり、傍らに置いてあるいちごオレをまた一口呷る。うん、甘い。
 自販機へまた硬貨を投入し、口直し用にミネラルウォーターを買った。
「にしても……キセキの入った学校のどっかが優勝するとは思ってたけど、まさか六人目のとこだとはなぁ」
「最終的にはちゃっかりキセキ全員倒してったしな。黒子」
「あーそうそう、月バスでキセキが試合やってる写真みると顔が全然ちげぇの。正に劇的ビフォーアフターって感じで」
「なんということでしょう……! 匠の手腕により彼らの表情が輝かしいものに!」
「真顔でそれ言うのやめろようけんだろおいっ!」
 この場合の匠は黒子とそのチームメイトだ。
 大笑いしながら背中を叩かれ危うくいちごオレを落としそうになる。
 服を蟻がよってきそうな匂いにするのも床を桃色一面に染めるのも御免なので必死にそれは阻止。
「でも、何だかんだいいつつ中学の部活も楽しかったよなぁ」
「え、お前ストレスマッハだったんじゃねーの。マゾ?」
「違う。プレッシャーには成長する上で身長を押さえつけられつつ能力的には伸びたと思うし、先輩はお察し下さい状態だし同輩には大分あれな思いさせられたけど後輩も後輩で問題児とか言いつつやっぱかわいかったんだよー」
「押し付けてめんご!」
「てへぺろみたいなノリで言われてもなぁ」
「ふんべろりぃの方がよかった?」
「何それ」
「てへぺろの男版。作るだけつくって使われなかった感満載だけど」
「へー……」
「お前あれだよな、後輩っつーか子供っつーか、とりあえず年下好きだろ」
「あ? うん、え?」
「後輩指導とか見てると年下には無条件で多目に見てるって感じ。まぁ教育はしっかりしてるから無問題だろうけど。で、年上には何か厳しいってか、ボーダーライン高いだろ」
「……自分よりしっかりしてないといらいらする。とかはあるかなぁ。でもあれ俺が心狭いだけだし、年下ならできなくてもまぁ」
「そーいうとこだろ」
「あー……? ……うーん、まぁ、確かに……そうかも?」
「曖昧だなおい」
「や、ってか何でそんな俺のこと知ってんの」
「部長の受け売り」
「……部長すげぇ……」
 掴み所のなさそうな笑顔が浮かぶ。腹に一物抱えていそう。いや、抱えている。確実に。
 ソーダを飲み干した彼が立ち上がり、空き缶入れから数メートル離れたところで真っ直ぐそれと向き合う。
 てーてーてってーてってってってててー! 
 よくわからないイントロが流れ出したところで佑は訳が解らずぽかんと口を開けた。
「さぁ四番が投げる! 空き缶という非常に軽いものも! 見事空き缶入れに入るのか! ? 注目の一瞬です! 振りかぶってぇー! !」
 嫌な予感しかしなかった為、というか実況擬きで既に耳が痛かった為いちごオレとミネラルウォーターを傍らに置き耳を塞ぐ。
 大きく振りかぶって。投げた。
 入った。
 入ったのだが、妙なバランスを保っていた缶の山が崩れたらしい。中身が外に飛び出ることは逃れたのだが、金属音は煩い。大切な事なのでもう一度言おう。煩い。
 意識せずとも舌打ちが洩れてしまうのも当たり前の事なのだ。
「何してんだ……煩ぇ」
「や、ちょっと野球少年だったこと思い出して!」
「野球じゃなくてバスケで四番狙えよ煩ぇ」
「やだアズ君がブラック」
「耳痛ぇんだよ……あー、もう!」
「即刻で元に戻るとこもまた」
 ははは。と呑気に笑う彼をねめつけ、図太くなったものだな。と思う。
 ため息をついていちごオレを飲む。まだなくなってはくれない。
 ミネラルウォーターをなんとなしに反対の手で遊んでいると、戻ってきた彼がそういえば。と横に座る。
「アズが主将ん時、二年と次の主将の話してたじゃん?」
「……あぁ、あの訳の解らない武勇伝」
「そうそれ、あん時赤司に主将任せんの反対してたよな? あれ未だに解んねーわ、今洛山で立派に主将やってんじゃん。なんでか」
「あれなー、うん」
「結局何だったんだあれ。てか、やたら赤司に構おうとしてなかったか? いや思い出してみれば下級生にはべたべただったけど、お前」
「え、そんなに? うーん、いや、やっぱり夏ごろ、か? の一件が大きい気がする」
「夏ごろ? オレらが二年の三年の?」
 首を傾げ尋ねる。しばらく手元をいじり、言葉を選ぶようにして視線をさ迷わせ。
「二年時の。……何かさ、無理してる感じがして」
「は?」
「ちょっと、あったんだよ。二年前にも言ったけど、潰れそうで、見てるこっちが怖いくらいで……すごく危うかったというかなんというか、今にも消えそうだったから……声かけたんだ」
「何て?」
「お疲れさま、って一言かけた。大丈夫? って聞こうにも全くそうは見えないし」
「ふーん……?」
「それから、そんな頑張んなくてもいいのに。って思ったから同じようなこと言ったけど、しかめっ面された」
「……」
「で、一年ちょっとした頃監督から次期主将のこと聞かされて、あいつをそれまで支えてやれればって思ってた。……ま、俺じゃ駄目だったみたいだけどな」
「……ふーん。……赤司が潰れそう、なぁ……」
「完璧な人間なんていねぇよ」
 形だけの笑みを浮かべ、いちごオレを一気に飲み干す。
 ミネラルウォーター片手に、軽くなった空き缶を捨てるべく立ち上がる。
 投げるなんて小学生のようなことはせず普通に入れると、遠くから此方へ向かってくるばたばたと騒がしい足音が聞こえ、彼を振り返った。
「ほら、もう帰るぞ」
「んー? おう」
 よっこらせ、かけ声で彼が立ち上がる。年寄りくさい。
 と、近くで足音が止まったかと思うと、今度は知った名前が聞こえた。
「あ、赤司ー! こんなとこに居たのか、そろそろホテル戻る時間だから呼びにきたー!」
「……え、」
 声のした通路を覗けば、角の直ぐ曲がったところに立っていた、鮮やかな赤色。
 そしてその後方に猫目が特徴的な青年が佑の姿を見付けると、あっと声を上げた。
「あれー! 小豆澤! ? 背ぇ伸びた? 去年会ったとき俺よりチビだったのにー! 久しぶり!」
「葉山……久しぶり」
 きらきらと無邪気に瞳を輝かせる彼。佑としては味方としても敵としても、余り試合を共にしたくない相手である。主に耳の安全面で。
 以前の試合風景を思いだし渋顔をすると、肩に重みが生まれる。
「よー、葉山。久しぶり。赤司……は、立ち聞き?」
「……」
 彼は二年前、赤司が主将の座を奪い取ったことに納得がいかないのだろう。挑発するように尋ねた。ずっしりと体重がかかっているのか、背中がやや丸まる。
 葉山は彼の言葉に同じく久しぶりー! と元気よく返したが、赤司は何も言わないで目を伏せたままだ。
 やがて、顔を上げたかと思えば佑の腕を掴み、葉山へと視線をやり。
「小太郎。僕は彼と少し話があるから先に戻っていろ」
「え? ……んー、ん、解った! 玲央姉ぇ達にも言っとくね!」
「ああ」
 言うなり掴んだ佑の腕を引き早足で場所を移動する。え、結局オレのこと無視? という声にすら赤司は黙殺した。佑は一言すまん、と謝ったが。
     
 *
 
 とりあえず、約二年ぶりに会えたのだ。腕を振り払うことはせず、変わりに話しかける。
「……久しぶりだな、赤司」
「……」
「背伸びたな、前髪は大分短くなったみたいだけど」
「……」
「WCお疲れさま、準優勝おめでとう」
「……それだけ、なのか」
「……どうした?」
「……さっきの話、聞いていた。僕が主将になる前の」
 館内を出て、会場の裏のような場所で立ち止まる。人のざわめきは聞こえるがわざわざここを覗く者は居ないだろう。
「聞いてたのか。お前足音まで消せ……、おい、なんて顔してんだ」
 少し上から見た表情が酷く痛ましげで。ぐい、と頬を上げさせ強引に目線を合わせれば、さらに唇が固く結ばれ、ぐっと眉が寄せられた。
 敢えて視線を外さず真っ直ぐに彼を見つめていると、数回の瞬きの後、彼が目をそらした。
 いつも見ていた彼らしくない。と思う。
 頂点に立つ、というよりは先導者のようなイメージを持っていた。後に続く者に道を教える。そこにおいて甘さは全くない。むしろ彼自身が山や谷を追加している気さえする。
 天性のカリスマというものなのだろう。自然と人が集まってくる。聞けば、帝光中の彼が主将を勤めていた年は歴代で一番部員が多かったそうじゃないか。
 それとも。
 今、己と対峙している彼が本当の彼なのだろうか。
 何かに堪えるように眉を寄せ、瞳を揺らして。
「赤司」
 名前を呼べば彼の指先がぴくり震え、数秒目を閉じる。
 開いた時には、いつも見ていた曇りのない瞳が佑を真っ直ぐ見つめていた。
「二年前も、聞いていたんだ。帰り道で忘れ物に気が付いて、部室へ取りに戻った」
「……でもお前、入って来なかったよな」
「三年生が、キセキの中では誰が主将に相応しいかの話をこっそりと聞いていた。僕に話題が移り意見を求められた貴方は、僕に、主将を任せたくない、と」
 そこまで言い、くしゃりと顔を歪ませた。
 何かを決意したような瞳がゆらゆらと揺れ始める。
「そこだけを聞いて、僕は、逃げ出した。貴方からかけられた言葉の全てが偽りの物に感じて」
「……、そうか」
「だが、今日、テツヤに敗北し、チームメイトにこんな顔を見せる訳にはいかないと一人でぶらついていたら、貴方の声が聞こえて。あの時の話をしていて」
「……ああ」
「初めて、知ったんだ。貴方が僕のことを、」
 あんなにも、震えた声が途切れ、戦慄く唇をはく、と動かした。音にならない。
 ずっと上を向かせていた頬の手を緩めると、赤司も特に力をこめていた訳ではないためその手からするりと抜け俯いた。
 中学よりも広がった身長差。体育館であの時蹲っていたように、項垂れる赤司の姿が酷く寂しそうに見えて。
 極自然な動作で、むしろ、無意識かもしれない。鮮やかな赤色の上に手を置く。
「……」
 肩を震わせたのを視認して、そのまま撫でていればゆっくりと顔が上がる。
「どうして、」
「ん?」
「……頭」
「……さぁ、WCお疲れさま、と、多分、疲れたよな。俺のこと」
 あんな目してたから、嫌うにも精神使うだろ? と言えばまた赤司の表情が曇り、こっそり焦る。
 ああ、後輩の前ではまだまだ見栄っ張りだと内心半笑いになりつつ。
「ちょっと勘違いしてただけだろ。というか勘違いさせた俺も悪いんだから、おあいこだ」
「だが、僕は貴方の場所をっ……」
「お前に負けたことで気が付けたこともあるんだ」
「……?」
「勝つことだけに必死だった。でもそれじゃ駄目なんだ。……なぁ、赤司は俺のことどう思ってるのか知らないけど、俺はただ、周りに期待外れだと言われるのが怖くて完璧になろうとしてただけの奴なんだ」
「……」
「お前が潰れそうで怖い、って言った割りには、その内自分が潰れてたかもしれない。人のことなんて何も言えないんだよ」
 撫ぜていた手を離し、しっかりと赤司へ目を合わせる。
「気が付かせてくれて、ありがとう」
「……、違う、僕はそんなっ……~!」
「違わない。……うん、でも、本当良かった」
「……っ」
 ゆっくり破顔すると、顔を歪ませた赤司が何かに気が付いたように佑の頬へ手を伸ばした。
 指先が表面を撫ぜる。
「……、泣いて、る」
「え……ああ、何でだろう、でも、可笑しくはないかな、知らないだろ? 俺が水道に頭から水被りに行くときは大体、泣いてる」
「……そう、なのか」
 ぼろぼろと止まることも知らないかのように落ちていく滴は、佑の頬から赤司の指先へ伝う。
 しばらく無言でいると、くしゃりと佑の表情が歪む。嗚咽が洩れた。
「……ぅ、っ……、良かった、ほんと、ずっと二年間……後悔してたんだ、もっと……っお前に、してやれたことが……、あったんじゃないかって……」
「せんぱ、」
「でもよかった、やっと、やっと……ひぐっ、……、ずっ……そっか、ああ、……っ」
「……先輩、っ……」
 泣きながら、嗚咽を洩らし次から次へとでてくる珠はとどまることを知らず。本人は鼻を啜りながらも気にした様子はなく、眉根を下げ笑いながらよかった、よかったと何度も繰り返す。
 赤司の瞳にも知らず知らずの内に温かいものが浮かび、頬を伝っていく。
 半ばもらい泣きの体であるが、たった一筋だったそれは佑にごめんなさい、謝る内に、徐々に粒となり今度は佑がそれに指を添えた。
「謝らないで、赤司、謝らなくていい。……っはは、赤司も、泣くんだ」
「な、……っ当たり前だ、僕だって、人の子だ」
「うん、知ってる」
 尚も涙を流したまま、佑は微笑み赤司の涙を掬う。
 ころころと落ちていく滴はすぐ指先にとける。ず、鼻を啜る音がどちらからともなく聞こえた。
「小豆澤、先輩」
「うん?」
「高校に入ってから、テツヤ達を下の名前で呼ぶようになった」
「うん」
「今のチームメイトも下の名前で呼んでいる」
「うん」
 やや躊躇うように口を開き、閉じる。ゆるりと視線をさ迷わせてから意を決したように佑を見据え、もう一度口を開いた。
「……佑さん、と呼んでも良いだろうか」
「……うん、?」
「ああ、いや、貴方が駄目だと言うのなら、僕は」
「あ、違う、そういうことじゃなくて、……てっきり、呼び捨てなのかと思ってた」
 早口で言葉を撤回しようとする赤司に佑は弁解するように手を振り。
 それを聞いた赤司はう、と口ごもり、視線をうろつかせ、うすら赤く頬を染め。
「あ、貴方が僕に色々と話をしたから言うが、……今まで一度も言ったことがなかったが、僕は、貴方を、その、尊敬している。……ああいや、そうは言っても、他の彼らのことを蔑ろにしている訳ではなくてだな」
「……尊敬、そうか。うん、呼び方変えるのに態々許可とかいらないよ。好きに呼べばいい。他の人のことも解ってる、大切じゃなきゃ下の名前で呼んだりしない」
「……」
「……赤司って、焦ると早口になるんだな」
「……貴方はしどろもどろじゃないか」
「……似てるかな」
「……さぁ」
 お互いの涙は、いつの間にか止まっていた。
 顔を見合わせ小さく笑う。
「目とか鼻とか、赤いよ」
「お互い様だな」
「……佑さんの十八番で、そそぐのは?」
「は?」
「それ」
 指差したのは佑が持っていたミネラルウォーター。
 佑が呆けている間に赤司はそれを掠め取り未開封のキャップを回し、景気よく佑にぶちまけた。
「ちょ、赤司、今冬!」
「そんなのは解っている。いいんだ、今日は僕の人生初の敗北記念日だぞ? このくらい景気よくいかなくてどうする。ちなみに新年早々知人友人他人関係なく互いに敬意を払うという意で水を掛け合うという祭りもあるから無問題だ。はい」
「それ旧暦だから四月だしその国で一番暑い時期だからな? ちょっと自棄入ってる? もういいや、そいっ!」
「勿論承知の上さ。最初は新年を迎える儀式だったということもな。無礼講だ冷たい」
「ああ冷たい。タオルとかあるよな?」
「ある」
 五百ミリリットルは被るには量が多いということはないが、それでも冷えた空気のなかで寒さを感じさせるには十分すぎて。
 遠くで赤司を呼ぶ声が聞こえる。あんまりにも帰りが遅いので探しにきたのだろう。
 なんだかもうテンションがおかしい。二人で笑った。
 佑が空になったペットボトルを持ち、もう片方の手で赤司の手を引く。
「ほら、いくぞ」
「……あいつらの反応が楽しみだ」
「あんま心配させてやるなよ」
「貴方こそ」
 しばらく穏やかな沈黙が流れたが、表へと出る直前、赤司が呟いた。
「ああ、今日は敗北を味わい、二年越しの、しかも始まりも終わりも立ち聞きという被害妄想も甚だしい過ちに気が付いたのに、なんだか、」
「清々しい気分だ」
「!」
「当たったか?」
 してやったり、な笑顔を浮かべる佑に、赤司はしばし惚けて。
 
 
 ああもう、本当に敵わない。